本書の内容

フィクションの「死」を通して「社会」を探求する。

——シャーロック・ホームズは、熱烈なファンの声により生き返った(死んでいなかったことになった)。
——力石徹(『あしたのジョー』)の死を悼んだファンの力により現実に葬儀が行われた。
——ラオウ(『北斗の拳』)が自死する際のセリフ、「我が生涯に一片の悔いなし!!」は、死に様の言葉としてネタに使われるほど、広く知られている。

このように、実在の人物の生死が社会的に意味を持つのと同じように、物語のキャラクターの死を悲しんだり、その死の意味を考えて論じたりするのはなぜだろうか? キャラクターの死は、現実に生きている私たちにとって、大切な何かの代理だと言えるかもしれない。アニメやマンガのキャラクターの死を取り上げて意味を探り、架空の人物の生死が私たちの心をなぜ揺り動かすのか、本書で掘り下げて考えていく。 ——まえがきより

【本書で考察した作品の一部例】(アニメ放送開始年順)
あしたのジョー/ルパン三世/海のトリトン/科学忍者隊ガッチャマン/宇宙戦艦ヤマト/フランダースの犬/さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち/機動戦士ガンダム/北斗の拳/タッチ/美少女戦士セーラームーン/新世紀エヴァンゲリオン/GANTZ/涼宮ハルヒの憂鬱/時をかける少女/らき☆すた/けいおん!/魔法少女まどか☆マギカ/STEINS;GATE/ソードアート・オンライン/氷菓/進撃の巨人/響け! ユーフォニアム/鬼滅の刃/機動戦士ガンダム 水星の魔女/チェンソーマン/グリッドマン ユニバース and more…



本書の目次

まえがき

第1章 二〇世紀の名作アニメに描かれたキャラクターの死

1『フランダースの犬』『ルパン三世』ほか
サブキャラクターの人気獲得と死亡回の増加

●死を描かなかった70年代以前の子ども向けアニメ
●世代を超えて愛されてきたアニメの本当の姿
●サブキャラクターの台頭と女性ファンの獲得

2『海のトリトン』『宇宙戦艦ヤマト』
最終回大量死の衝撃とリアルな死の描写

●「皆殺し」の異名をとる人物の原点
●賛否両論語られるキャラクターの死の美化

3『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』ほか
死の描写や性描写が過激化した80年代

●波及する過激描写と茶の間の反応
●富野アニメだからできた衝撃的な残虐描写
●原作の残虐さを忠実に再現した名作アニメ
●オタクが白い目で見られるようになった理由


第2章 死を描かない京アニ作品から死を辿る

1死を描かない京アニ大ヒット作品と
『ひぐらしのなく頃に』『東のエデン』ほか深夜裏アニメ

●なぜ京アニは死を描かなかったのか?
●垣間見える京アニ制作姿勢の異質さ
●数々の伝説を残したアニメ作品の登場
●リアルな生死の問題が強く表現された年

2 平成中期の京アニ作品と
『Angel Beats!』ほか深夜裏アニメで描かれた死

●ゼロ年代アニメが辿り着いた最終進化形
●大災害に襲われた日本人がアニメに求めたもの
●大人向けアニメの増加と京アニ作品の方向転換
●時代の流行に乗り始めた作品選び

3『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『けいおん!』ほか
代表作から深掘りする京アニの死生観

●京アニのアニメ化企画の特徴
●深刻さを排除する徹底した作品作り
●家族よりも友人、恋愛よりも友情
●日本アニメにおける音楽表現の最高峰

4『氷菓』『Another』ほか
平成ミステリーアニメから見える死生観

●運命に導かれた2つの「自社製作」会社
●制作者が作品を選び、作品もまた制作者を選ぶ
●死者ゼロ作品を生んだキャラクターの保守性
●「涼宮ハルヒ」と「千反田える」の共通点
●誰も不幸にしないという作者の意志
●死の影を消す守られた世界での青春
●京アニの死生観が強く現れた劇場アニメ作品
●対照的に死を受け入れた劇場アニメ作品
●知らぬ間に変えられている視聴者の死生観


第3章 社会現象としてのキャラクターの生き様と死に様

1『あしたのジョー』
力石徹の葬儀と矢吹丈のラストシーンの謎

●前代未聞のキャラクターのリアル葬儀
●男は戦いのために生き、死んでも勝つもの

2『宇宙戦艦ヤマト』
語り継がれる沖田艦長の死に際の名セリフ

●新旧世代の交代を秀逸に描いた名シーン
●普遍的な存在感を放ったアニメ史に残るキャラクターの最期

3『タッチ』
和也の突然死と達也が残した名セリフ

●これまでになかった悲劇の表現
●死んでしまったヒーローには誰も勝てない
●三角関係の構図が印象付ける死の重み

4『北斗の拳』
ラオウの自死と死に際の名セリフ

●名セリフを多数生んだアクション作品の金字塔
●戦いに敗れ死してもなお信じるものは己のみ

5『機動戦士Ⅴガンダム』
深刻な死生観を思わせた唯一無二のガンダム作品

●ガンダム史上最も過酷な運命を背負わされた少年
●90年代の終末観に影響を受けた救いのない死
●人類抹殺のアイデアは偶然か必然か

6『新世紀エヴァンゲリオン』
綾波レイの死と復活がもたらしたもの

●制作陣が心を壊すほどの衝撃の傑作、あるいは問題作
●死の重みが軽んじられていったきっかけ
●平成アニメの典型を作った時間SF


第4章 死んでも蘇るキャラクターから見る平成アニメの死生観

1『ロードス島戦記』『スレイヤーズ』ほか
繰り返し可能なゲーム的死生観

●和製ファンタジーの元祖となった名作
●日本に「ファンタジー」が浸透したきっかけ
●暗黙の了解を打ち破った作品の登場

2『美少女戦士セーラームーン』ほか
現代美少女キャラを生んだ戦闘美少女&魔法少女

●一度きりの生を必死に生きたいと願った少女たち
●異質なオーラを放つ昭和の女性戦士たち
●戦闘美少女独特の存在感はどこから放たれているのか?
●当たり前に死を恐れ命を愛しむ少女像

3『GANTZ』『魔法少女まどか☆マギカ』ほか
生き返りとタイムリーパーたち

●時代の終末待望気分が生んだ儚い名作
●まるで没入型蘇りデスゲーム作品
●青春のリアルを追求したタイムリープ作品の金字塔
●視聴者も時間ループし続けた8週間
●超常ヒロインも「今しかできない」を求めている
●王道タイムリープ作品に見る複数の世界線
●世界を再創造するちゃぶ台返しのラスト

4『コードギアス反逆のルルーシュ』『革命機ヴァルヴレイヴ』ほか
不可逆的に流れる時間の終焉

●「時」は必ず終わるという現実を受け入れた3作
●あえてのカオスさが視聴者に親近感を与える
●日本人が好んでしまう英雄叙事詩的な物語
●多様性と文明の進化が見え隠れする異色作

5『グリッドマン ユニバース』
マルチバースの世界で見るアニメ

●怪獣・特撮アニメの最先端
●マルチバース的作品が若者の共感を集める理由


第5章 平成・令和のキャラクターに学ぶこれからの生き方

1『響け! ユーフォニアム』ほか
音楽系アニメから辿る死生観の変化

●時代とともに変わりゆく若年層の死生観
●ゼロ年代的な平穏無事な日常とは?
●部活アニメにリアリティを生み出す難しさ
●スポ根魂がキャラクターから死を遠ざける
●「リアリティ」の意味合いが変わった音楽アニメ
●死が身近にある物語ほど親和性の高い音楽
●死がテーマの曲に共通するある形式
●音楽アニメと音楽もあるアニメ
●リアルな社会問題が死を浮き彫りにする

2「異世界転生」関連作品ほか
二次創作の普及とゲーム化されていくキャラクターの死

●同じキャラクターなのに生死が異なる不思議な現象
●さまざまなジャンルで広がる革命的な展開
●マルチバース化最大の産物「異世界転生」作品
●必然的なキャラクターの死も生き返らせることができる時代

3『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『君の名は。』ほか
令和に生きる人々の死生観

●世界は「人間原理」でいかようにも変わる
●なぜ人々は「鬼殺し」に魅了されたのか
●世界的に注目された震災3部作
●20世紀と21世紀の大人のあり方の違い
●生き生きと描かれた脇役キャラクターの力
●彼女を救うか、世界を救うか?
●現代人は「夢物語」を求めている?

4『ソードアート・オンライン』『チェンソーマン』ほか
王道メタバース作品と先祖返りの謎

●メタバース作品の過去・現在・未来
●世界市場売り上げベスト3の日本ラノベの共通点
●死生観は普遍性を保ち続ける
●現代人の精神的疲労を体現する非人間的なキャラクターの生き様
●令和の大ヒット作品で描かれる奇妙な先祖返り

あとがき


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著者プロフィール

浦澄彬

1967年大阪生まれ。アニメブームのリアル世代。小学生の時に『宇宙戦艦ヤマト』初回放映を見てアニメファンになり、中高生の頃にはオタクのはしりだった。1989年、大阪芸術大学文芸学科卒業。在学中から作家を志し、セカイ系を先取りした小説を多数執筆。卒業後は、高校の国語教員として数校に勤務。1998年、小説『パブロのいる店で』(澪標)刊行。20世紀末当時、流行していた世紀末の気分を作品に描いた。2000年、村上春樹論の連載で「関西文学選奨」の奨励賞受賞。同年、評論『村上春樹を歩く』(彩流社)刊行。以後、高校教員のかたわら、文芸評論を多数発表。アニメ「涼宮ハルヒ」シリーズなどを比較研究した論文を、別名義でオンライン学会誌『こころの科学とエピステモロジー』に連載。2023年、評論『村上春樹の猿~獣と嫉妬と謎の死の系譜』(電子版)刊行。

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